教科書
Vol.118|ホテルもヒトも経年優化


先日、立教ゼミ生有志の沖縄合宿の際に、ハレクラニ沖縄を訪問し、福永GMから講話をいただきました。その際、こんな話を教えてくれました。
「ホテルのオーナーの三井不動産は、『経年優化』という言葉をよく使います。建物は時が経つにつれて劣化していくけれど、大事に愛情込めて使っていけば古くなっても劣化せず、魅力を出していけるのです」
長年、多くのホテルや旅館を巡っていて、私は疑問を持っていました。「時間が経つにつれて魅力を失っていく施設と、古くなればなるほど味わいが増してくる施設があるが、その違いは何だろうか」という疑問です。つまり、「経年劣化する施設が多い一方で、経年優化する施設にはどんな要素が必要なのだろうか」という問いです。
ホテリエの腕の見せ所
いわゆるクラシックホテルと呼ばれるホテルが代表格ですが、皆様も古くなればなるほど味わいを増すホテル、ビンテージの魅力がにじみ出てくるホテルをご存知だと思います。では、その違い、経年優化する要素は何だろうか。この問いを数年間考えてみました。
もちろん、建築として素晴らしい建物であり、安普請ではなく「建材」にもしっかりお金をかけているということが前提ではありますが、私の答えは、「それらの魅力を創っていくのは使う人」だということです。オーナー、経営者、働くホテリエ、そしてお客さま。こんな方々が愛情込めて大事にホテルを使い、日々磨きを続けると、素晴らしい珠玉の名門ホテルになっていくのです。そして、これこそホテリエの腕の見せ所だとも思っています。単に建物を消費していたら古くなり魅力を失っていくけれど、時が経つにつれて、ハコという空間に、思想や精神や、温かい思い遣りの連鎖の空気を吹き込むことで、そのホテルの魅力が増していく。エントランスからロビーラウンジに足を踏み入れた瞬間に、新築ホテルには絶対に出せない、ぞくぞくするほどの上質なオーラを感じる。そんな空気感を醸成させていくことも、ホテリエなのだと思っています。

ハレクラニと同じ沖縄ですが、那覇に「ザ・ナハテラス」というホテルがあります。ここがまさに「新築には出せない上質なオーラを感じる」ホテルなのです。理由の一つをホテルの方に聞いたところ、「例えば、階段の手すり。うちは金メッキではなく真鍮を使っています。真鍮は毎日磨いていないとすぐに輝きがくすんでしまう。でも磨きを怠らずにいるとメッキには出せない味わいが出てくるのです」と教えてくれました。
人は、歳をとればとるほど美しくなる
これ、ヒトも同じだと気付きました。ホテルの場合は「建物」と「ソフト」であり、ヒトの場合は「肉体」と「精神・人格」。今年還暦を迎える福永総支配人の外見(肉体)は、いつまでも経年劣化しないけれど、私を含めた普通の人の外見は経年劣化する。でも、その外見も、精神と人格を磨くことで、ヒトとしてのトータルの魅力は経年優化させられる。
裏を返せば、ホテルのソフトは、ヒトでいうところの精神と人格。ホテルという空間に漂う精神や思想、哲学といったもので感じる「人柄」のようなものがホテルにもあるのです。

かつて、オータパブリケイションズの太田土之助社主が言っていたことを思い出します。
「人は、歳をとればとるほど美しくなる」
社主は、その通り、92歳で他界するまで輝いていらっしゃいました。珈琲色した肌艶も、真っ白な頭髪も・・・。私は、入社当時、社主の最後の鞄持ちとして社主に仕えていましたが、読書を欠かさず、フィットネスジム通いを続け、自身の内面を磨くことにも努力を惜しみませんでした。
太田社主は元々「帝国ホテル」のホテルマンでしたが、もしかしたらこの美学、「外見と人格の双方を磨くことでトータルの魅力を経年優化させるという思想」が、ホテリエに共通する美学であり矜持なのかもしれません。