Knowledge ホテルマネジメントの
教科書

Vol.119|人材不足の真因

 昨年、フィンランドのヘルシンキを訪問しました。7月に4日間、そして11月に二日間滞在。一年間に二回も訪ねた理由は、たいそう気に入ったからです。美しい街並み、美味しい食、スタイリッシュな北欧デザインの家具やインテリアなど、どれをとっても魅力的なのです。ただ、こうした要素はヨーロッパのほかの国にも存在します。では、なぜフィンランドに私は強く惹かれたのか。それを少し深く考えてみたところ、フィンランドの魅力の在りかは別のところにあることに気付きました。それは、「人々の魅力」でした。カフェの店員、ホテルスタッフ、UBERタクシーのドライバー、出会った人々みなさん人間的に魅力的なのです。話をしていて楽しいのです。

 ヘルシンキの街の中心にあるラップランドホテル。ここは7月に泊まって気に入り、11月にも再訪しました。11月に宿泊した際は妻に加え、娘も同行していたので部屋にエキストラベッドを入れていただきました。チェックインして部屋に入るとすぐにハウスキーパーの女性が部屋をノックし、ベッドを搬入してくれます。40代とおぼしき白人女性です。部屋に入るや否やテキパキとベッドを設え、リネンを広げます。見ていて気持ちよいほど手際が良い。私は素敵なホテルスタッフに出会うとつい話しかけたくなってしまうのですが、彼女はきれいな英語で受け答えしてくれます。「我々は7月にこのホテルに泊まってとても気に入ったので再訪したんです」と伝えると、「そうなのよ、このホテル素晴らしいでしょ、特に朝食の評判がいいのよ」とか、「客室に備えてあるサウナをぜひ使ってみて」とか、「日本は行ったことないけれど、一度ぜひ行ってみたい国の一つなの」といった会話を交わしました。手を止めることなく、始終ニコニコしながら楽しそうに・・・。

 街中のカフェでも、店員さんはみな口角が上がっていて、目を輝かせている。自身の接客や店の雰囲気、パティスリーの質の高さに誇りを持っているのを感じます。何度も利用したUBERタクシーにしても、仏頂面で不愛想な運転手は一人としていませんでした。みな、仕事を楽し気にやっている。

 つまり、ヘルシンキという街の印象が私にとって極めて良い理由は、出会った人々みなさんが魅力的だったからなのです。接客サービスを受けて、やはり嬉しいのは魅力的なサービスパーソンとのコミュニケーションなのです。もっと言うと、自分の仕事に誇りを持ち、自分にも自信を持って、堂々と、決して上から目線でもなく、下から目線でもない、対等な関係で、その場、その時間をお客さんと一緒に楽しむ人とのやり取り。こんな接客パーソンとの出会いが私にとっても最高の喜びなのです。

 かつての日本のホテルには、そういうホテルパーソンがたくさんいました。お客さんに喜んでもらうことを、まるで趣味のように考えている人たち。職人として自分の仕事に矜持を持ち、仕事を自身のアイデンティと考えて磨き続けている人たち。

 私が残念に思うのは、そういう人、つまり「ホテルの仕事に誇りをもって、接客を楽しむ人」をあまり見かけなくなったことです。

 海外に出ると、ホテルに限らず、仕事に誇りを持って仕事を楽しんでいる人に多く出会います。それは、ヨーロッパに限ったことではなく、シンガポールでもカンボジアといったアジアの国でも出会います。肌感覚ですが、いまの日本ではあまり出会わない。多くのホテルスタッフは、生活のために仕事をこなす。お客さんをもてなすのではなく、お客さんをさばく。相手に興味関心を寄せず、会話ではなくセリフを言いながら。こんなホテルパーソンが多い気がします。

 1990年代、ホテルは人気職業でした。ドラマ『HOTEL』の影響で、多くの若者がホテル業界を志望し、就職・採用戦線は超・買い手市場でした。結果、優秀でモチベーションの高い、人柄の素晴らしい人材が宿泊産業に数多く入ったことで、日本のホテルの接客は世界からも高く評価されていたし、当のホテルパーソンたちも、ホテルで働くプロフェッショナルであることに矜持を抱いている人が多かったです。憧れの先輩や目指したい上司ホテリエが大勢いて、若手はそうなりたいと自分磨きに努力していました。

 ホテル業界の人材不足問題が叫ばれて久しくなりました。その理由としては、低賃金、少ない休日数、辛い仕事といったイメージが定着してしまったこと、そして、コロナ禍でホテルの需要が激減したことにより「不安定な仕事」であることが世間に露呈されたことが一般的には挙げられます。確かにそうした要因も大きいでしょう。でも、私は人材不足の真因は「プライドを持ってこの仕事を楽しみながら行う人が少なくなってしまった」ことにあると考えています。「誇りを感じられない仕事になってしまったこと」こそ、人材不足の本当の原因なのです。

 2027年1月7日、弊社は「HOTEL BUSINESS SIMMIT」というイベントを企画しています。コンセプトとして「ホテルは、世界をもっと、ワクワクできる」を掲げ、おもてなしや非日常空間といった従来のホテルの在り方や価値提供の仕方だけではなく、新しいライフスタイルや流行、思想を伝えることのできるクリエイティブな仕事であることに気付いた人たちに大勢集まっていただき、ホテルが創るワクワクする未来、ホテリエが生み出せる新しい価値を語り合うイベントです。

 ホテルの仕事は実に尊い仕事であり、魅力に溢れた仕事。価値や魅力、一生の思い出をゲストに提供してあげることで自身を磨き続けることができる素晴らしい仕事であることを再確認し、「業界に誇りと矜持をとり戻す」。これを集った全員で宣言したいと思います。

※誇りと矜持・・・誇りは、「この仕事をしていてよかった」「自分は社会に貢献している」という、喜びや自信の感情。矜持は、自分が大切にしている信念や価値観、譲れない一線を守り抜こうとする心。言い換えれば、「誇り」は自分の価値を尊く思う心、「矜持」はその価値を自らの行動で守り抜く心。

執筆者
近藤 寛和 (こんどう ひろかず)

会長/創業者