教科書
Vol.117|宿の実力と、美しい在り方とは


先日、レベニューマネジメントのスペシャリストH氏をインタビューしました。大学生のころからレベニューマネジメントの面白さを感じていてずっと実業でRMの仕事をしてきたベテランです。H氏の発言で印象的だったのは、「レベニューマネジメントは単なる価格と在庫のコントロールにあらず。売り上げだけではなく利益やCRMも含め、ホテル経営全般を向上させる概念です」とおっしゃっていたこと。そして、「価値の伴わない価格上昇に私は否定的です」とも。
話は変わり、前回の雑学ノートに続きBaliのウブド地区の現状の話。私が泊まったのは「Komaneka at Tanggayuda」というプライベートプール付きのヴィラタイプ。十分素敵なウブドのホテルですが、一泊朝食付き3人で泊まって3万6,000円。一方、リッツカールトンやフォーシーズンズ、アマンなどは一泊30万~40万円。つまり、価格差約10倍。利用者として受け取った価値はそんなに変わらないし、建築コストも、人件費や原価なども、さほど変わらないと思います(変わってもせいぜい1.5倍程度)。
「物質的豊かさ」以上に、「精神的豊かさ」の提供
この現状を見て思ったのは、「どんなに頑張ってもドメスティックホテルは勝てないのか」ということです。そんな絶望チックな思いを抱きつつモヤモヤしていたのですが、「そういえば・・・」と思いとどまりました。京都の旅館スタイルのホテル「SOWAKA」を思い出しました。京都というラグジュアリーホテル激戦区で堂々と高単価で販売し繁盛しています。ハードは一般的な意味でのラグジュアリー空間ではないけれど、京都ならではの味わい深い上質な空気が流れている。接客に熟達し、洗練された立ち居振る舞いをするスタッフが、この宿に込められた思いや歴史、ナラティブを自然に語ってくれる。それによって訪問者は、京都という土地につながり、宿の哲学を肌で感じる。中身は薄いのにデジマやブランド力だけで集客できてしまっている宿とは一線を画し、しっかりと価値をお届けしながら高単価販売が実現しているのです。宿としての実力がある。
つまり、「ドメスティックホテルでも、勝ち方はある」ことを「SOWAKA」は証明しているんです。ラグジュアリー空間や高額な食材を使った料理といった「物質的豊かさ」以上に、「精神的豊かさ」の提供で評価されています。これからのホテル経営者やマネジャーの実力、ひいては宿の実力とは、この「ホテルが創る精神的な豊かさ」の質なのではないか。「SOWAKA」の在り方を見てそんなことを考えてみたということを同ホテルの経営者である川崎総一郎社長に伝えたら、下記のようなコメントをいただきました。
経済という土俵とは異なる、美しい世界
「価格に見合った価値の提供という点では、感性のレベニューマネジメントも大切だなと思います。ゲストの目線で、価格に見合った価値が提供できているか、価値に見合った価格設定になっているかは、『感じて』判断していくものでもあるので、感じて価値提供を高める努力をし、感じて適正な価格かをみていくことが大切ではないかなと思ったりします。そして、たとえ価格という指標では勝てていなくても、満足感を提供しつづけ、関係性を深め、ゲストの人生において唯一の存在になり、働くメンバーに還元できる世界を確立することができれば、それは経済パフォーマンスという勝負の土俵とは異なる視点で、美しい世界なのだと思います。そういう観点では、ドメスティックホテルは、グローバルブランドと戦える智慧と力を磨きながらも、彼らの経済合理性の戦いという海とは違う海を選び、独自の道の先に世界を構築する、勇気と智慧と実現力が大切なのだと考えています」
日本にたくさん欲しいのは、こういうホテルだと私は思っています。